日々のお勤めお疲れさまです。アカツッキーです。
緊急事態宣言が延長するって話の中、ここ1週間くらい近所の公園を訪れる人間は増え、そのほぼ全員がマスクをせずに遊んだり談笑している光景が増えました。私はコロナが収束した、または存在しない世界線に迷い込んだのだろうかと割と本気で思う日々ですが皆様いかがお過ごしでしょうか。
表題。
以前ブログで紹介させていただいた、ひざのうらはやお氏(Twitter)の【煤煙~浦安八景~】と同じく2019年末の大崎コミックシェルターにて購入した短編集のご紹介。
ネタバレめっちゃあります。
文章の量=評価の良し悪しではありません。
<Introduction>※裏表紙より
――『横浜』。それは瀟洒にして人々の欲望を孕み、家系ラーメンの故郷でありながら中華街や赤レンガ倉庫を擁し、京急が走る港町である。
この本はテキレボ7の打ち上げの勢いで立ち上がった、❝横浜❞以外のルール無用のノージャンルアンソロジー。
書き手6名の持ち味が遠慮容赦なくぶちまけられ、読者はおろか書き手たち自身をも困惑させる混沌の権化。
安寧から逸脱した読書体験を望む貴女に贈る、全ての書き手が刮目するアンソロジー。
『あえて言おう。カオスであると』
1,Guan YU in Yokohama
作者:白色黒蛇(Twitter)
日本でも人気の三国志に登場する武将・関羽雲長が変わり者の閻魔大王に唆されて(?)横浜中華街にある「横浜関帝廟」で商業の神として祀られている自分を冥府から霊体となって見に行く物語。
一言で言うと「まぁ、そうなるな」ですね。
約1700年の時間が経過したが故にスマートフォンを始めとするカルチャーショックに襲われ、更には自分が女体化されていることを知り言葉を失ってしまう辺りは「デスヨネー(笑)」としか言いようがない。織田信長とかもっと酷いけど……。しかし物語の最後に約70年の間戦乱に見舞われず平和な時代が続いていることを知った関羽が漏らした「良い世ですな」の一言が、まことに万感の思いが籠もっていて実に良い。好き。
閻魔大王という語り部(進行役)と、目につくものすべてに驚きと疑問を抱く主人公ムーブをかます関羽という分かりやすい構図とぶれないキャラ設定で実に読みやすい物語でした。
2,横浜に星は堕ちて
作者:夕凪悠弥(Twitter)
横浜で星と言えば、やはり横浜ベイスターズのことだろう(知らんけど)。その球団マスコットである星頭こと●ッシーっぽいなにかとハムスターことスター●ンに近いなにかによる怪獣大決戦。
一言でいうと「ゴジラで見た」ですね。
高校生の「僕」が両親とともに訪れた横浜で、突如出現した巨大なホッ●ーと遭遇。ホッ●ーは手足でビルを破壊し、車を踏み潰し、目からビームを発射して横浜の町を破壊していく。そこに現れるハムスター型のロボット。ビームを防ぐ盾と鋭利なドリルでホッ●ーと激突する。
個人的なイメージはまさに「ゴジラVSメカゴジラ(モゲラ含む)」という感じ。ちゃんと見たことないですが(マテ)。この作品に触れるまでベイスターズのマスコットが変わったことを知りませんでした。ずいぶん可愛らしくなっちゃってまぁ……(検索してみてね!)。 「僕」の思考パターンは「いるいるこういう奴」と思わせるもので、その「僕」の視点から描かれる人々の様子は実にリアルだ。「自分だけは大丈夫」という謎の自信による野次馬根性はきっと現実世界でも同様だろう。●ねばいい。
最後の表現からはどれほどの時間が経過したのか分からないのが個人的に少々もやっとしたが、それ以外は状況描写がリアルでイメージしやすい物語でした。
3,Dear Y
作者:ひざのうらはやお(Twitter)
思い出の女性への想い、その終着点として訪れた神戸の町を歩みながら、女性との思い出が息づく横浜を思い起こす、現実と回想の物語。
一言でいうと「切ない」ですね。
横浜国立大学時代に出会った女性・千野由紀。不思議な魅力を持った彼女に惹かれ、彼女と同じ合唱団へ。帰りの最寄り駅が同じということも僥倖だった。けれど次第に気付いていく。「彼女は自分とは違うのだ」ということに。神戸を歩くという『現実』と彼女との横浜での交流という『回想』が交互に描かれている。この本は文章構成が2段組となっていることもあり途中回想なのかどうか迷う部分があったが(私の読書力の低さとも言える)、各項はエピソードがきちんとまとまっており読みやすい。
最後に描かれた主人公の恋文という名の独白は、解釈の仕方がいくつもあって面白い。きっとこれまでの経験によって感じ入るものが違うだろう。
4,半球のスター・ダスト
作者:今田ずんばあらず(Twitter)
小さき冒険者・緑豆さんの星空を求める小さな旅の物語。
一言でいうと「タイトル詐欺(褒め言葉)」ですね。
最初の一行が「ねえ、星空を見たことがあるかい?」で始まる。そしてこのタイトル。横浜で星空とはどんな空の物語だろうと思っていたが、三行目で登場する「緑豆くん」の文字でおやぁ?となる。緑豆と横浜というワードで勘の良い人ならお気づきだろう。そう、これは緑豆もやしの物語である。横浜でもやしということは……そう、これは横浜家系ラーメンの話なのである。とはいえ物語そのものは「なるほどこういう視点もあるのか」と思う部分が多い。半球ってそういうことかと最後はクスリとする。
普段何気なく「モノ」として認識し触れているものが意思を持っていたらという視点の作品は少なくない。でも生産からラーメンとして口内に到達するまでをこうもドラマティックに描いた作品を私は知らない。蓮華さん好き。
5,ヨコハマさん
作者:へにゃらぽっちぽー(Twitter)
へにゃらぽっちぽー兄さんとへにゃぽちゃん兄妹の隣に引っ越してきたお嬢様のヨコハマさん。引っ越しのご挨拶にシウマイをいただき、そのお礼にヨコハマさんのお話を贈ろうと兄妹がヨコハマの町に行きお話を考える物語。
一言でいうと「私は何を読んでいるんだ?」ですね。
最初に断っておきますが、馬鹿にしているなどということは断じてありません。その上で、この作品はいわゆるスルメ作品だなと感じました。ヨコハマは実在する横浜とは別の世界線の町ではあるものの、シーパラ・ハマスタ・赤レンガ・カップヌードルミュージアムなど実在する観光地をいくつも取り入れており、その描写の仕方などは独特ではあるものの、ランドマークタワー(仮)の前にある動く歩道など細かい部分も描かれており丁寧です。
最終的に完成するお話がまさかの論文には驚きました。そしてへにゃらぽっちぽーさんの作品に初めて触れて、最後まで読んで、率直にこう思いました。へにゃらぽっちぽーってなんだよ(真顔)
6,赤い光、横浜
作者:転枝(Twitter)
恋人にデートをすっぽかされた女性二人が、互いの恋について語る物語。
一言でいうと「めっちゃ正統派(当社比)」ですね。
筆者は横浜在中とのことで、街の描写が大変リアルに描かれている。主舞台がビブレ裏の広場という時点で、横浜という町を「観光地」ではなく「地元」として見る視点があるからこその情景であり、私にはとても新鮮に見えた。物語の主軸であり、全体の主観を担う女性・「私」のした昔の恋の描写も丁寧で、当時の彼女が恋人に、そして恋に対してどれほどの想いを持っていたかがしみじみと伝わってくる。
物語の最後は綺麗にまとまり清々しい気分になる。個人的な主観と好みの話ではあるが、このアンソロジーにおいて最も「横浜」を感じる正統派な作品だった。
7,ヨコハマ戦士たちの The 談会
読め(以上)。
ということでザックリと感想でした。この記事を書き始めたのが4月だったのにほぼ丸々1ヶ月放置していたというのは自分でも驚く限り。いやほんとすいません。
個人的にこういうテーマだけを決めてあとは自由!というアンソロジーはアレコレとルールが決められたものよりも、その人その人の個性が存分に発揮されるのでとても好きです。普通に読んでいたら、へにゃらぽっちぽーさんと転枝さんのような作品性がまったく異なるベクトルを持つ作品とは一生出会えないというものです。
私の語彙力が足りず、また過分に私の趣味主観によって色々とお伝えできない部分も多いのですが、伊達に「カオス・アンソロジー」を名乗ってはいないなと思うほど個性的な作品たちです。ご機会ありましたらぜひ読んでみて下さい。
各作家様はそれぞれ個人での活動も活発に行なっていらっしゃいますので、そちらもぜひチェックしてみてくださいね。
次回の読書感想文は最近買った本の話の予定。
ではまた。