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【不定期連載】あめつちの言ノ葉を読み解く 第3回『つ』

日々のお勤めお疲れさまです。アカツッキーです。

連載企画の第二回目。始めていきたいと思います。

 

※注意※

ブログ内に書いてあるものは筆者の個人的主観と偏見による意見であり、作品の生みの親である今田ずんばあらず氏の思想等とは一切関係ありませんし、的外れな場合もあります。御理解の上閲覧ください。

あとネタバレを含みます。

 

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あめつちの言ノ葉

◆第一章 模倣と翼の章(2002~2008.01)より

トリガー

ジャンル:†黒歴史†・ハードボイルド/概算文字数:18400文字

 <概要>

200x年、日本。王政主義団体「クラックエイジ」が突然の蜂起。彼らの得意とするゲリラ戦法の前に自衛隊と連合軍は奮戦虚しく撤退を余儀なくされ、日本は完全に孤立する。神谷鳥牙(みたに・ちょうが)はそんな日本で愛する妻子とともに、息苦しさを感じながらも穏やかな日々を過ごしていた。そんなある日、彼に一本の電話が入る。それはこれから始まる鳥牙の長い一日を告げるものだった。

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~ここから感想~

 

『中二時代の作品。読み返して恥ずかしい作品は多々あれど、黒歴史にしたい作品はこれ一作のみ。(中略)正直目を覆いたくなるが、黒歴史だからこそ、この短編集に入れなければならないと思い、こうして名を載せている』

 全部の物語の最後にはずんば氏本人による作品へのコメントが記載されているが、明確に「黒歴史」と言っているのはこの作品だけである。読んでみて「ああ、これは確かに黒歴史にしたい作品だ」と感じた。それと同時に、これを読んだ感想をどう表現すればいいのか、この文章を書いているいまも悩んでいる。

「ツッコミどころが多すぎる!!」といった具合にひたすら思ったことをズバズバ言っていくのはさぞ気持ちがいいだろう。しかし自分の黒歴史ならいざ知らず、他人のそれに対して行なうのは迷惑行為をして注目を集めようとするYouTuberのような非礼を感じずにはいられない。

 色々悩んだが、やはり今までとあまり変わらない書き方をしようと思う。ずんば氏より「気にせず好きな感じに書いてくれればいい。そのうえで、この作品読んでみたいなって思ってもらえる書き方なら嬉しい」という言葉を頂戴しているが、そうした記事にできているかどうかはまったく自信がない……。

 

 さて、前置きがずいぶん長くなってしまったので、そろそろ本題に入ります。冒頭にも書いてありますが、今回は特にネタバレが酷いのでこれから読む予定の人は気をつけて欲しい

 

 物語の主人公である神谷鳥牙は表向きは普通のサラリーマンだが、その正体は自衛隊員である。しかも自衛隊内でも一部の人間しか知らない極秘のエリート部隊「シューティング隊」に所属している。コードネームは「トリガー」。彼を含むシューティング隊が招集され、日本の実質的支配者であるクラックエイジのボス・城崎勇一(しろさき・ゆういち)を確保または殺害するために組織が根城にしている国会議事堂への突入作戦に招集されるところから物語が始まる。

 全体的に言えるところは「地の文が多すぎる」ということだ。第1回『あ』では「会話が多くて地の文が少ない」と書いたが、今回はその逆である。読者が容易に想像できるような目の前の光景のすべてを、一つ一つ並べ立てているかのような描写は、テンポの悪さに直結する。ただ、これも説明的な会話で話を進めようとするのと同じく、頭の中のイメージを表現する語彙を持たない、または何が必要で何が不必要なのかを取捨選択するための知識や指標が少ない故に起こる「よくあること」だ。

 また、逆に自分の頭の中を十分に説明できない部分はザックリとした表現で強引に物語を進めており、読者視点からすると「チョット待って。それでいいのか?」と思う部分も多い。いわゆるご都合主義である。

 

 物語中盤からは神谷たちシューティング隊とクラックエイジとの戦闘シーンが続く。「自衛隊の中でも選ばれた精鋭たち」であるシューティング隊(というか神谷と相棒)は、まさに一騎当千の活躍である。数年前に大流行していた(?)いわゆる「俺TUEEEE」風味な主人公補正が効きまくった神谷たちの活躍は眼を見張る。

 例えば国会議事堂内での戦闘の一幕。建物内の曲がり角部分で敵の投げた手榴弾が爆発し、それに合わせて敵が突撃してきたシーンでのこと。

 神谷は向かってきた敵が構えている拳銃の銃口めがけて発泡。自身の銃口から発射された弾丸は敵の銃口から内部へと侵入し、装填されていた弾丸と接触。そして暴発。それにより暴発した銃を握っていた敵の手首が吹き飛んでいる。

 また神谷の相棒のチー(吉川千惟)は凄腕のスナイパーである。同じ場面で彼女は曲がり角から顔とライフルを『一瞬だけ』出し、『小数点以下の時間(つまり1秒に満たない時間で)』で狙いを定め、的確に敵の腕や足を撃ち抜いている。

 建物内で手榴弾が爆発して砂煙も大量に舞っているであろう環境でこれである。主人公補正ハンパない。つおい(語彙力が溶ける)。

 

 そんな死地で激戦を繰り広げているシューティング隊の司令官はのんきに紅茶を飲んでいたり、敵の親玉である城崎が割と煽られ耐性が低くてすぐに激昂したり、その側近と思われるクラックエイジのメンバーが城崎と神谷の会話を聞いて割とあっさり裏切ったりと、読んでいて良くも悪くも笑ってしまうシーンが多い。

 

 こうして書くと「黒歴史」と作者であるずんば氏が認める通りの駄作のように思えるが、要素を拾い上げていくと実は割としっかりとしている。

 

 まず最初に言いたいのは、表現などが多少不足(過剰)であったとしても、ある程度筋道が通っていないと物語は完結しないということ。これがたとえ黒歴史と言われる作品であろうと、まず「完結できている」ということそのものがすごいことなのだ。

 詳しく中を見てみる。

 例えば国会議事堂突入前、神谷とチーは国会議事堂近くのハンバーガーショップで食事をする描写がある。誰もが知る大手チェーン店を模した店だが、作中では全国展開していたこの店も、神谷たちが食事をした店以外はすべて潰れている。原因はクラックエイジの反乱により日本が孤立したため、原材料を始めとする経費が高騰し、維持できなくなったため。そして客足の減少に伴い人件費削減のため店員が減り、提供までの時間が増えたことなどの描写がある。こうした具体例があると、その影響力など世界観をより具体的にイメージしやすい。

 とはいえ、このシーンの最後に書かれた「これらの原因の根源にはクラックエイジの影があるのはもう存じているだろう(原文ママ)」という一文はまさに蛇足……。初めて読んだ時に思わず「いや、知らんがな」と言ってしまった。 

 

 また、シューティング隊の使う武器などについてもよく調べている。チーの使うM24スナイパーライフルはまだしも、終盤で登場するダムダム弾などは恥ずかしながら私はこの作品で初めて知った。

 

 ご都合主義と主人公補正、ガバガバな理論とガバガバな作戦。創作を嗜み、黒歴史の痛みを知る人間であれば思わず額に手を当て「イテテテ」と言ってしまうような作品ではあるが、同時にアイディアと精一杯の表現で伝えようとする熱意と、なにより当時これを活き活きと書いている姿が目に浮かぶ「作者の楽しさ」が感じられた。

 

 この「あめつちの言ノ葉」を手にした際、私はずんば氏に「どれか気に入った作品と出会ったらVOICEROIDで朗読した動画を作ってもいいだろうか?」と問いかけた。それに対してずんば氏は快諾してくれたが、その際に勧められたのがこの「トリガー」だった。ハッキリ言うが、これは朗読より劇場向けだよ先生。 

 なぜ自分で黒歴史と言ってしまうような作品を勧めたのかについては、個人的に「どういう感想を言われるのか怖いけど知りたい」という欲求があったのではないかと私は勝手に思っています。

 

 気になる点はたくさんあったけれど、私はこういう作品嫌いじゃないですよ。

 

 ただ一つだけ言わせて下さい。

 

 M24スナイパーライフルに特注のアタッチメントを装着することで毎分700発を発射する機関銃になるのはさすがにどうかと思います(苦笑)

 

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 末筆でのご紹介で恐縮ですが、ずんば氏こと今田ずんばあらず先生はご本人でnoteというサイトでご自身の想いを綴られています。その中で、このブログをご紹介いただきました。心よりお礼申し上げます。

 作者ご本人の言葉で作品やそれにまつわるエピソードを私とは違って読みやすい文章で書かれていらっしゃいますので、どうぞそちらも合わせてご覧ください。

 

 

トリガー / 2020.02.02 読了

 

著者・今田ずんばあらず氏:Twitternote

イラスト・秋月アキラ(大城慎也)氏:Twitter 

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